「保護犬って、犬を飼ったことがある人じゃないと難しそう。」
「経験者のみ譲渡可能」
これは、保護団体や譲渡会でもよく耳にする言葉です。 でも、本当にそうでしょうか。
実は私は、「初心者か経験者か」という分類自体は、それほど重要ではないと思っています。
私の運営するレスキューグループ「Buddies」では、新しい家族になってくださった方の約35%は、それまで犬と一切暮らしたことがない「完全な初心者」の方でした。
残りの65%の方も「子供の時に実家で飼っていた」という方が多く、大人になってから犬を育て上げた、いわゆる「ベテラン飼い主」の方はほとんどいません。
つまり私たちの元では、「犬を飼うのが初めて」ということだけを理由に譲渡をお断りすることは、基本的にありません。
「初心者」と「経験者」にも、さまざまな層がある
そもそも、一言で「初心者」「経験者」といっても、その経験や準備の程度は大きく異なります。
完全に初めての方
犬と暮らした経験がない方です。
不安に思えるかもしれませんが、事前によく調べ、困ったときに相談できる環境があれば、素晴らしい飼い主さんになる方も、もちろんたくさんいます。
また、犬との暮らしは初めてでも、子育てや家族の介護などを通して、相手の変化を観察すること、予定どおりにいかない状況に対応すること、継続的にお世話をすることに慣れている方もいます。そのような経験が、犬との暮らしでも対応の幅につながる場合があります。
一方で、問題行動ではなくても「犬は吠える」「うんちはくさい」などの当たり前の事象に、最初は驚かれる方もいます。
実家で犬を飼っていた方
「子どもの頃から家に犬がいた」という方です。
お世話やしつけを主に保護者が担当していた場合、楽しい思い出のみが強く残り、実際の大変さや医療管理の苦労を経験していないこともあります。
1〜2頭の飼育経験がある方
経験はあるものの、その経験は「その子」に限られます。
穏やかな犬としか暮らしたことがない方が不安の強い子を迎えれば戸惑いますし、シニア犬の介護には自信があっても、活発な子犬の扱いには苦労することもあります。
1匹の経験があれば何でも分かる、というわけではありません。
経験は財産です。しかし、その経験だけで次の犬がうまくいく保証にはなりません。
多頭飼育や介護、問題行動を経験した方
さまざまなタイプの犬と長い時間をかけて向き合ってきた経験は、大きな財産になります。
それでも、新しい犬を迎えれば、その子に合わせて学び直す必要があることもあります。
例えば、介護に力を入れてきた方は、老犬の扱いに関する知識や経験は豊富でも、噛み癖や恐怖心の強い子の対応は、今までと同様にはいきません。
一方で、想定外のことが起きても過度に動揺せず、落ち着いて対応しやすいという点では、これまでの経験が精神的な支えとして大きく効いてきます。
専門家(獣医師・トレーナーなど)
専門知識があっても、すべての犬に完璧に対応できるわけではありません。
ただ、多くの犬に接してきた経験によって、対応できる幅が広がり、想定外のことにも動揺しにくくなる場合があります。
もちろん、この場合も、今までの経験通りに対応できないことも少なくありません。
専門家であっても、自分の専門領域だけに固執せず、別の専門家の意見も聞き入れ、時に専門家でない人の力も借りるなど、柔軟な姿勢や対応が必要となります。
「経験があれば何でも分かる」わけではありません。 過去の経験は財産ですが、次の犬がうまくいく保証にはならないのです。

なぜ「保護犬は初心者には難しい」と思われるのか?
その理由は、ペットショップやブリーダーと保護犬での「情報の見え方の違い」にあるのかもしれません。
1. 「子犬なら育てやすい」と思われがち
子犬はまっさらな存在で簡単に思えますが、社会化、トイレ、留守番など覚えることが山積みです。
甘噛み、夜鳴き、いたずら、誤食、散歩の練習など、子犬ならではの大変さは決して少なくありません。
実際に、獣医師で保護活動を行っている私ですら、子犬が来ると育児ノイローゼのようになることも多々あります。
子犬は「白紙だから簡単」というわけではありません。
むしろ、まだこれから多くのことを学び、吸収していく時期だからこそ、その子の可能性を伸ばせるか、逆に狭めてしまうかは、飼い主の関わり方に大きく左右されます。それだけ大きな責任が伴います。
2. 「小さいから扱いやすい」と思われがち
小型犬や子犬は体が小さいため、「なんとかなりそう」と感じる方も多いようです。
確かに散歩のひっぱりなどは大型犬より小型犬の方が、対応しやすいかもしれません。
しかし、体の大きさと育てやすさ自体は別の話です。
吠え、不安、分離不安、社会化不足などは、犬のサイズに関係なく起こります。
「小型犬だから散歩は少なくても良い」、「ケージに入れっぱなしでOK」ということは決してありません。
食事、散歩、遊び、コミュニケーション、健康管理など、毎日の継続的な世話が必要であることは、小型犬でも大型犬でも変わりません。
3. 「お金を払って迎える=安心」と感じやすい
ペットショップやブリーダーで「商品」として販売されている犬であっても、健康や飼いやすさが保証されているわけではありません。
特に一部の純血種では、犬種特有の遺伝性疾患や、近親交配、極端な外見や小型化を追求した繁殖による健康リスクが問題になることがあります。
もちろん、適切に繁殖・管理されている繁殖業者・販売業者もいます。
しかしどこから来たか、誰から生まれたかにかかわらず、子犬で購入した犬であっても、保護犬であっても、今後の健康リスクや問題行動のリスクはどの犬も抱えています。
4. 保護犬は最初からリスクが説明される
保護犬では、
- 慣れるまで時間がかかるかもしれない
- 医療ケアが必要かもしれない
- 脱走対策が必要
- 相性を見ながら進めたい
といった説明を、重々と受けることが少なくありません。
そのため、「難しそう」という印象を持たれることがあります。
しかし、これは保護犬だから難しいというより、時に杞憂になるリスクであっても事前に細かく共有されているからかもしれません。
つまり、「保護犬は難しい」のではなく、保護犬の方が最初からリスク開示されていることが多いとも言えるのです。
性格もサイズも確定している「成犬」は、意外に初心者向き
保護犬の多くは、すでに性格や生活スタイルが分かっています。
預かり家庭で暮らしている犬であれば、以下のような情報を事前に知ることができます。
- トイレは上手にできるか
- 他の犬や子どもとの相性はどうか
- 留守番や散歩は好きか、何が苦手か
もちろん、環境が変われば新しい課題が見つかることもあります。
それでも、「どんな犬なのか」がある程度分かっていることは、大きな安心材料になります。
「どんな犬なのか」がある程度分かっており、体のサイズも確定している成犬の保護犬こそ、実は初心者に向いているケースがとても多いのです。

犬を迎える準備は「経験」ではなく「姿勢」で決まる
犬との暮らしで本当に大切なのは、以下のような項目だと考えています。
- 犬をよく観察できること
- 分からないことを調べられること
- 自分の知識や経験だけに縛られず、新しい知識や意見を取り入れられること
- 困ったときに、誰かに相談したり頼ったりできること
- 家族でルールを共有し、協力しあえること
「昔飼っていたから大丈夫」という自信よりも、「この子には何が必要なんだろう」と学び続けられる姿勢の方がずっと大切だと私は考えています。
「初心者だから」と諦めないで!
もし保護犬を迎えたい気持ちがあるのなら、「初心者だから無理」と最初から諦める必要はありません。
むしろ初めてだからこそ、先入観が少なく、その子に合わせて学び続けられる方もたくさんいます。
大切なのは、「犬を飼ったことがあるか」ではなく、「この子にはどんな暮らしが合うのだろう」「自分は何ができるだろう」と考え続けられること。
保護犬は「助けるための存在」ではありません。
一緒に暮らし、お互いに支え合う家族です。
大切なのは、その家庭とその犬が、お互いに無理なく幸せに暮らせる組み合わせを見つけること。
これから保護犬との暮らしを考えている方は、不安を抱えたまま一人で悩まず、ぜひ保護団体や獣医師に相談してみてください。
この記事をはじめ、これからAnima Factでお届けしていく情報が、保護犬との暮らしを前向きに考え、安心して一歩を踏み出すきっかけになれば嬉しく思います。