保護猫でも、ペットショップやブリーダーから迎えた猫でも、子猫でも成猫でも、お迎えしたあとに突然、くしゃみや鼻水、目やになどの「猫風邪」の症状が現れることがあります。
くしゃみや鼻水、目やになど、人の風邪によく似た症状がみられることから、「猫風邪」と呼ばれています。
しかし、人の一般的な風邪とは少し異なり、一度症状が治まっても、原因となったウイルスが体内に残ることがあります。
では、猫風邪とはどんな病気なのでしょうか。
「猫風邪」はひとつの病気ではない
「猫風邪」とは、くしゃみ、鼻水、結膜炎、発熱、食欲低下などを起こす猫の感染症の総称です。
代表的な原因には、
- 猫ヘルペスウイルス1型(FHV-1):くしゃみや鼻水、結膜炎、角膜炎など
- 猫カリシウイルス(FCV):上部気道症状に加えて、舌や口腔内の潰瘍など
- Chlamydia felis:強い結膜炎など
- Bordetella bronchiseptica:くしゃみや鼻水、咳など
などがあります。
特にFHV-1とFCVは代表的な原因で、猫のコアワクチンにも含まれているウイルスです。[1][2]
原因となる病原体によって、みられやすい症状にも違いがあります。たとえばFHV-1では、くしゃみや鼻水、結膜炎、角膜炎などがみられやすく、FCVでは上部気道症状に加えて、舌や口腔内の潰瘍などがみられることがあります。[1][2]
また、複数の病原体に同時に感染していることもあり、「猫風邪」という言葉だけで原因を特定することはできません。

なぜ迎えたばかりの猫では、猫風邪がよくみられるの?
子猫の場合、成猫に比べて免疫機能がまだ十分に発達しておらず、感染症の影響を受けやすい時期です。
特に、出生後に母猫の初乳を十分に飲めなかった場合には、母猫から受け取る移行抗体が少なくなり、感染症に対する防御力が弱くなることがあります。
また、繁殖場や多頭飼育環境など、複数の猫が同じ環境で生活する場所では、猫同士の接触が増えるため、病原体が広がりやすくなります。[1][2]
さらに、移動や新しい環境への適応によるストレスも関係します。
ストレスによって免疫機能が一時的に低下すると、それまで症状が出ていなかった感染症が表に出てくることがあります。
特にFHV-1は、一度感染すると神経組織に潜伏し、その後も体内に残ります。普段は症状がなくても、移動や環境変化などのストレスをきっかけにウイルスが再活性化し、くしゃみや鼻水、目やになどの症状が再び現れることがあります。[1]
実際にFHV-1の潜伏感染猫では、ステロイド投与や新しい環境への移動などをきっかけにウイルスの再排出が起こることが報告されています。[1]
そのため、迎える前は元気に見えていた成猫でも、新しい家庭に来て数日後から猫風邪の症状が出てくることがあります。
お迎えそのものが猫にとって大きな環境変化であり、ある程度のストレスがかかることは避けられません。特に迎えて間もない時期は、食欲や元気だけでなく、くしゃみ、鼻水、目やに、目の充血などの変化にも注意して様子を見ることが大切です。
子猫では「ただの風邪」と考えないで
健康な成猫では比較的軽い症状で経過することもありますが、「猫風邪」がすべての猫にとって軽く済むものとは限りません。
特に注意したいのが、まだ免疫機能が十分に発達していない子猫です。FHV-1による上部気道感染症も、若齢の子猫では重症化しやすいことが知られています。[1]
鼻づまりによって匂いを感じにくくなったり、FCVによる口腔内の潰瘍や痛みがあったりすると、食欲が低下することがあります。子猫では、食事や水分を十分にとれない状態が続くことで、脱水や低血糖につながることもあります。[2]
また、重症例では肺炎などを起こすこともあります。
FHV-1による角膜炎や角膜潰瘍などでは、治療が遅れると眼に後遺症を残すケースもあります。[1]
「猫風邪」という名前から軽く考えられがちですが、年齢や症状によっては早めの治療が必要な感染症です。
ワクチンを打っていれば、猫風邪にはならない?
FHV-1とFCVは、猫の「コアワクチン」に含まれる代表的な猫風邪ウイルスです。[1][2]
ただし、ワクチンを接種していれば絶対に感染しないというわけではありません。また、すでに体内に潜伏・持続感染しているウイルスを排除するものでもありません。
これらのワクチンの主な目的は、感染そのものを完全に防ぐことではなく、感染した場合の症状を軽減し、重症化のリスクを下げることにあります。[1][2]
そのため、ワクチンを接種していても猫風邪を発症したり、過去に感染した猫で症状が再び現れたりすることがあります。
特にFHV-1では、ストレスや体調の変化をきっかけに、潜伏していたウイルスが再活性化することがあります。そのため、普段から十分な栄養や休息をとれる環境を整え、急な環境変化や強いストレスをできるだけ減らすことも大切です。
また、何らかの基礎疾患や、免疫抑制剤の使用、高用量/長期間のステロイド投与などによって免疫機能が低下している猫では、猫風邪の症状が長引いたり、重症化や二次感染を起こしたりすることがあります。

猫風邪はどうやって治療する?
猫風邪の治療は、原因となる病原体や症状の程度によって異なります。
軽症の場合には自然に改善することもありますが、鼻や目の分泌物を清潔に保つことや、十分な水分・栄養をとれるようにするなどのケアも重要です。
鼻づまりや口腔内の痛みなどによって食欲が低下することもあるため、食事がとれているかにも注意します。鼻づまりや分泌物が多い場合には、状態に応じてネブライザーなどを用いることもあります。
FHV-1が原因と考えられる場合には、症状や重症度に応じてファムシクロビルなどの抗ウイルス薬を使用することがあります。[1] 結膜炎や角膜炎などの眼症状がある場合には、点眼薬などによる治療が必要になることもあります。
また、猫風邪では抗生物質が処方されることもあります。ただし、抗生物質はFHV-1やFCVなどのウイルスそのものに効く薬ではありません。
細菌による二次感染が疑われる場合や、Chlamydia felis、Bordetella bronchisepticaなど、抗菌薬の対象となる病原体が関与している場合に使用されます。[3]
この際、猫では錠剤やカプセルが食道内にとどまることで、食道炎や食道狭窄を起こすことがあるため、投薬方法にも注意が必要です。
薬を投与した直後に、水やフードを与え、薬が食道内に留まらないようにしましょう。
特に猫の上部気道感染症で処方されることのあるドキシサイクリン(ビブラマイシンなど)では、投与後に食道狭窄を起こした症例が報告されているため、注意が必要です。
また、インターフェロン製剤が使用されることもあります。

猫風邪は、一度治ったらそれで終わり?
猫風邪は、症状が治まったあとの経過も、原因となる病原体によって異なります。
FHV-1は、一度感染すると体内に潜伏します。症状がなくなってもウイルスそのものが完全に消えるわけではなく、ストレスや体調の変化などをきっかけに再活性化し、くしゃみや鼻水、目やになどの症状が再び現れることがあります。[1]
一方、FCVでは、症状が改善したあともしばらくウイルスの排出が続くことがあり、中には長期間ウイルスを排出する猫もいます。[2]
つまり、「症状がなくなった=病原体が完全になくなった」とは限りません。
ただし、猫風邪の原因となるウイルスは猫の間に広く存在しており、過去に感染したことのある猫は決して珍しくありません。[1][2]
感染後にほとんど症状が出ない猫もいれば、体調や環境の変化などによって、ときどきくしゃみや目やになどの症状を繰り返す猫もいます。
また、猫風邪をきっかけに、くしゃみや鼻水などの症状が慢性的に続く「慢性鼻炎・副鼻腔炎」につながることもあります。[1][4]
こうした慢性的な症状は、必ずしもウイルスが活発に増殖し続けているという意味ではありません。感染後に残った鼻腔内の炎症や組織の変化、二次的な細菌感染など、さまざまな要因が関係していることがあります。[4]
慢性化した場合には、症状に合わせたケアや治療を行いながら、長期的にコントロールしていくこともあります。
一方で、鼻水が片側だけから続く、血が混じる、顔の腫れがある、症状が徐々に悪化するなどの場合には、ただの猫風邪の再発と決めつけず、異物、歯科疾患、真菌感染、腫瘍など、ほかの病気が隠れていないか調べることも重要です。
また、猫風邪の症状が出ている時期には病原体を排出している可能性もあるため、多頭飼育の場合には、ほかの猫との接触や共有物の扱いなどに注意が必要です。
猫風邪は、猫にとって決して珍しい感染症ではありません。一度感染すると長く付き合っていくウイルスもあり、症状の出方やその後の経過も猫によって異なります。
「猫風邪」という名前だけで必要以上に怖がったり、反対に「ただの風邪」と見過ごしたりするのではなく、その性質を知り、その猫の状態に合わせて適切に対応していくことが大切です。
参考文献
[1] European Advisory Board on Cat Diseases (ABCD). Guideline for Feline Herpesvirus Infection. Updated May 2026.
[2] European Advisory Board on Cat Diseases (ABCD). Guideline for Feline Calicivirus Infection. Updated 2025.
[3] European Advisory Board on Cat Diseases (ABCD). Guideline for Bordetella bronchiseptica Infection in Cats.
[4] 『猫の治療ガイド2020』「鼻炎・副鼻腔炎」ほか関連項目