保護した猫や、新しく家族に迎える猫の健康診断で行われることの多い「FIV・FeLV検査」。
その結果、「FeLV陽性です」と言われることがあります。
FeLVとは、猫白血病ウイルス(Feline Leukemia Virus)のこと。
「白血病」という名前から、
「もう白血病を発症しているの?」
「ほかの猫にはうつる?」
「長く生きられないの?」
と不安になる方もいるかもしれません。
しかし、FeLV陽性=白血病を発症している、という意味ではありません。
また、FeLVに感染した猫がすべて同じ経過をたどるわけでもありません。
一方で、FeLVはFIV(猫免疫不全ウイルス)とは感染の仕方や病気の進み方が異なり、特にほかの猫への感染については慎重に考える必要があります。
FeLVとはどんな感染症なのか、検査結果をどう考えればよいのか、治療や予防には何ができるのか。そしてFeLV陽性の猫とどう暮らしていけるのかを整理します。
FeLVは「白血病そのもの」ではない
FeLVは、猫に感染するレトロウイルスの一種です。
感染すると、一部の猫では免疫系や骨髄などに影響し、
・貧血
・白血球や血小板の減少
・免疫機能の低下
・感染症
・リンパ腫
・白血病
など、さまざまな病気を引き起こすことがあります。[1]
つまり、「猫白血病ウイルス」という名前ではありますが、FeLVに感染した猫がすべて白血病になるわけではありません。
FeLVは、免疫系や血液などに影響し、さまざまな疾患のリスクを高める可能性のあるウイルス、と考えた方が実態に近いでしょう。

FeLVはどうやって感染する?
FeLVは、主に感染猫の唾液などを介して猫から猫へ感染します。
たとえば、
・お互いのグルーミング
・食器などの共有
・長期間の密接な同居
・咬傷
・母猫から子猫への感染
などがあります。[1][2]
ここはFIVとの大きな違いです。
FIVでは咬傷による感染が特に重要で、穏やかな猫同士の日常的な接触だけで感染するリスクは高くありません。
一方FeLVでは、仲の良い猫同士のグルーミングなど、攻撃を伴わない日常的な濃厚接触でも感染する可能性があります。
そのため、多頭飼育ではFIVよりも感染管理が重要になります。
一方で、FeLVは環境中で長期間感染性を維持するウイルスではなく、石けんや消毒、熱、乾燥など通常の清掃や消毒で感染性を失いやすいです。
汚染された人の手や物の表面などを介した間接的な感染は起こりにくく、感染には一般的に猫同士の濃厚で継続的な接触が必要とされています。
また、人や犬に感染することはありません。
子猫では特に注意が必要
FeLVへの感受性には年齢差があります。
特に子猫では、ウイルスに曝露されたあとに感染が全身へ広がり、持続的な感染へ進むリスクが成猫より高いことが知られています。[1][2]
成長に伴ってFeLVに対する抵抗性は高くなりますが、成猫であれば感染しないという意味ではありません。
また、感染した母猫から胎子や子猫へウイルスが伝わることもあり、流産や死産、感染した子猫が生まれる原因となることがあります。
保護された子猫や妊娠猫では、こうした背景も含めてFeLV感染を評価する必要があります。
感染しても、すべての猫が同じ経過をたどるわけではない
FeLVを理解するうえで非常に重要なのが、感染したあとに猫の体がウイルスをどの程度抑えられるかによって、その後の経過が変わるということです。
現在は主に、次のような感染状態に分類されています。[1][2]
排除感染
ウイルスに曝露されても、猫自身の免疫反応によってウイルスの増殖が早い段階で抑えられ、感染が成立しない、あるいは排除される状態です。
一般的なFeLV抗原検査では陰性になります。
退行性(潜伏)感染
感染後、免疫反応によって活発なウイルス増殖は抑えられたものの、ウイルス由来のDNA(プロウイルス)が体内に残っている状態です。
通常は、血液中に持続的なウイルス血症を認めず、他の猫への感染源となる可能性も、FeLV関連疾患を発症するリスクも「進行性感染」と比較して低くなります。
ただし、免疫抑制などをきっかけとして、まれにウイルスが再活性化する可能性があります。
進行性(持続)感染
猫自身の免疫反応でウイルスの増殖を十分に抑えることができず、持続的なウイルス血症が続く状態です。
この場合、唾液などからウイルスを排出するため、ほかの猫への感染源になる可能性があります。
また、貧血、免疫抑制、リンパ腫などのFeLV関連疾患を発症するリスクも高くなります。
つまり、同じ「FeLVに感染した猫」であっても、体の中で起きていることや将来のリスクは同じではありません。
「一度の陽性」だけでは分からないこともある
動物病院や保護施設で一般的に行われるFeLVのスクリーニング検査では、主に血液中のFeLV抗原を検出しています。
「検査キットで一度陽性だった」という情報だけで、その猫の将来まで決まるわけではありません。
また、一度の検査結果だけでは、その猫の感染状態を完全には判断できないこともあります。[1][2]
感染して間もない時期では、まだ十分な抗原が血液中に現れておらず、感染していても陰性になる可能性があります。
一方、一度抗原陽性になった猫が、その後の免疫反応によってウイルスの増殖を抑え、後の検査では抗原陰性になることもあります。
そのため、最初のスクリーニング検査で陽性だった場合には、別の検査法による確認や、一定期間をあけた再検査が行われます。
PCR検査では、抗原ではなくウイルス由来の遺伝情報を調べることができます。
たとえば退行性感染では、抗原検査では陰性でも、プロウイルスDNAを調べるPCRでは陽性となる場合があります。
つまり、
「一度陽性だった=生涯ずっと同じ状態」
「一度陰性だった=絶対に感染していない」
とは限りません。
検査を行った時期や感染の可能性、ほかの検査結果なども合わせて判断することが重要です。
FeLVに感染すると、どんな病気になる?
FeLVによって起こる病気は一つではありません。
代表的なものには、
・再生不良性貧血などの血液異常
・白血球や血小板の減少
・免疫抑制に伴う感染症
・リンパ腫
・白血病
・口腔内疾患
などがあります。[1][2]
ただし、FeLV陽性猫に起きた病気が、すべてFeLVによって起きているとは限りません。
FeLV陽性であっても、腎臓病や消化器疾患など、FeLVとは関係のない一般的な猫の病気になることは当然あります。
「FeLVだから仕方がない」と決めつけず、その猫に起きている問題を一つずつ診断することが重要です。

FeLVの治療はできる?
現在のところ、体内からFeLVを確実に排除する治療法は確立されていません。[1][2]
しかし、「FeLVそのものを治せない」ことと、「治療できることがない」ことは別です。
たとえば、細菌感染症を起こした場合には必要に応じて抗菌薬を使用し、重度の貧血では輸血が必要になることがあります。
重度の口内炎では、薬だけを長期間使用するのではなく、抜歯を含む歯科治療によって状態が改善するケースもあります。[2]
リンパ腫や白血病を発症した場合にも、それぞれの疾患に応じて化学療法などが検討されます。
FeLV陽性だからという理由だけで、一律に積極的な治療を諦める必要はありません。
その猫が現在どのような病気を抱えているのか、治療によってどの程度QOLの改善が期待できるのかを考えて治療を選択します。
インターフェロンや抗ウイルス薬は?
FeLVそのものへの治療として、インターフェロンや抗レトロウイルス薬など、ウイルスの増殖やそれに伴う症状を抑えることを目的とした治療も研究されてきました。[1][2]
一部では臨床症状の改善などが報告されていますが、すべてのFeLV陽性猫に使用することで長期的な予後が改善すると確立された治療ではありません。
そのため、現在の症状や感染状態、治療によるメリットと副作用などを考慮して、個別に検討します。
元気なFeLV陽性猫はどうすればいい?
FeLV陽性でも、症状がなく元気に生活している猫はいます。
その場合、必ず何らかの薬を投与し続ける必要があるわけではありません。
むしろ大切なのは、異常を早く見つけられるように健康状態を継続して確認することです。
FeLV陽性猫では、少なくとも半年ごとの健康診断が推奨されています。また、定期的な血液検査、口腔内の確認、体重のチェック、寄生虫予防などを行います。[1][2]
家庭でも、
「最近少し痩せてきた」
「食欲が落ちた」
「口を痛がるようになった」
「元気がない」
といった小さな変化に気づくことが重要です。
食事についても、良好な栄養状態を保つことが基本です。
特に生肉などの未加熱食品は、細菌や寄生虫に曝露されるリスクがあるため、免疫機能に影響を受ける可能性のあるFeLV陽性猫では避けることが推奨されています。[1][3]
また、感染症への曝露を減らすという意味でも、基本的には室内飼育が推奨されます。
これはほかの猫にFeLVを感染させないためだけではなく、FeLV陽性猫自身をほかの感染症や環境ストレスから守る意味もあります。
FeLV陽性だと、長く生きられない?
特に進行性感染では、FeLV陰性猫と比較して寿命が短くなる傾向があります。[1]
しかし、「FeLV陽性=すぐに発症する」あるいは、「FeLV陽性=あと○年しか生きられない」と考えることも適切ではありません。
感染状態、年齢、免疫状態、併発疾患、生活環境などによって経過には大きな個体差があります。
また、進行性感染と退行性感染でも予後は異なります。
研究で示される生存期間は、ある集団を観察したときの統計です。
その数字が、目の前にいる一匹の猫の「余命」を決めるわけではありません。
FeLV陽性猫は、ほかの猫と暮らせない?
進行性感染の猫では感染性ウイルスを排出するため、FeLV陰性猫への感染リスクがあります。
感染を確実に避けるという観点では、FeLV陽性猫だけで暮らす、または単頭飼育する
ことが最も安全です。[1][2]
一方で、すでにFeLV陰性猫と暮らしている場合など、現実にはさまざまな状況があります。
その場合には、陽性猫の感染状態、猫同士の接触状況、陰性猫の年齢やワクチン接種状況などを含め、個別にリスクを評価する必要があります。
ワクチンを接種すれば一緒に暮らせる?
FeLV陰性猫には、ワクチンによって感染リスクを下げるという選択肢があります。
ただし、FeLVワクチンを接種していても感染を100%防げるわけではありません。[2]
そのため、「ワクチンを接種したから、FeLV陽性猫と接触しても絶対に大丈夫」とは言えません。
また、ワクチン自体にもリスクがないわけではありません。
接種後には、一時的な発熱、元気・食欲の低下、接種部位の痛みや腫れなどがみられることがあります。また、まれに強いアレルギー反応が起こることもあります。
さらに猫では、注射部位に悪性腫瘍が発生する「猫注射部位肉腫(FISS)」が非常にまれにみられます。過去にはFeLVワクチンとの関連も報告され、特にアジュバントを含む不活化ワクチンによる局所炎症との関連が検討されてきました。[3]
現在では、FISSはワクチン以外の注射後にも発生することが分かっており、FeLVワクチンだけが原因というわけではありません。
日本では、FeLVワクチンは「ノンコアワクチン(生活環境やリスクに応じて接種を検討するワクチン)」と位置付けられており、その猫がFeLVに曝露する可能性や年齢、生活環境などを踏まえ、感染予防によって得られるメリットと、接種に伴うリスクを比較して判断することが重要です。
FIVとFeLVは、同じように考えない
FIVとFeLVは、一緒に検査されることが多いため、似た感染症だと思われることがあります。
しかし、感染の仕方や感染管理には大きな違いがあります。
FIVでは主に深い咬傷によって感染するため、猫同士の関係が安定していれば、FIV陽性猫と陰性猫が同居できるケースもあります。
一方FeLVでは、グルーミングなどの長期間の密接な接触でも感染する可能性があります。
またFeLVでは、感染後にウイルスを排除・抑制できるかによって、排除感染、退行性感染、進行性感染など異なる経過をとることも、検査結果や予後を考えるうえで重要です。
「FIV・FeLV陽性」とひとまとめにせず、それぞれの感染症について理解したうえで生活環境を考える必要があります。
「FeLV陽性」だけで、その猫の選択肢をなくさないために
保護猫の譲渡では、「FeLV陽性」という結果が大きなハードルになることがあります。
もちろん、FeLVは軽視してよい感染症ではありません。
特にほかの猫への感染については、適切な知識と感染管理が必要です。
一方で、
「陽性だから、もう病気の猫」
「どうせ長く生きられない」
「陽性だから、家族に迎えることはできない」
と一つの検査結果だけで決めてしまうことも、現在分かっているFeLVの病態を正確に反映しているとは言えません。
FeLV陽性という結果が出たら、
・本当に感染しているのか
・どのような感染状態なのか
・現在、FeLVに関連した病気を発症しているのか
・どのような生活環境なら安全に暮らせるのか
を一つずつ考えていくことが大切です。
FeLVそのものを体から完全に排除する治療法は、現在のところ確立されていません。
それでも、健康状態を定期的に確認し、病気が見つかれば必要な治療を行い、感染リスクを管理することで、その猫のQOLを守るためにできることはあります。
感染症について正しく知ることは、リスクを無視するためではありません。
必要なリスク管理をしながら、「FeLV陽性」というラベルだけで、その猫に残されている選択肢まで奪わないためにあります。
参考文献
[1] Little S, Levy J, Hartmann K, et al. 2020 AAFP Feline Retrovirus Testing and Management Guidelines. Journal of Feline Medicine and Surgery. 2020.
[2] European Advisory Board on Cat Diseases (ABCD). Guideline for Feline Leukaemia Virus Infection.
[3] European Advisory Board on Cat Diseases (ABCD). Guideline for Feline Injection-Site Sarcoma.